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ニュースリリース

令和2年12月

紫外線により誘導される皮膚バリア機能低下を
キハダ樹皮エキスが改善することを確認

 佐藤製薬株式会社(本社:東京都港区、社長:佐藤誠一)は、皮膚機能と生薬についての研究を進め、紫外線が皮膚バリア機能にダメージを与えるメカニズムに関する新たな知見を得ました。さらに、以前から素材としての有用性に着目していたキハダ樹皮エキス(オウバクエキス)*1およびキハダ樹皮エキスに含まれる主要成分であるベルベリンに、紫外線が皮膚バリア機能に与えるダメージを改善する作用を見出しました。
 なお、本研究成果は、2020年10月21日~10月30日にオンライン開催された第31回国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)世界大会にて発表しました。

1.研究の背景および成果

 皮膚のバリアは、表皮最外層に位置する角層バリアとともに、タイトジャンクション(TJ)によるバリアが存在し、外部からの刺激によるダメージや体内からの水分の喪失を防ぐ役割を果たしています。紫外線が皮膚の構造にダメージを与え、皮膚老化の進行に寄与することはよく知られていますが、加えて、TJによるバリア機能の低下を引き起こすことも報告されています。TJのバリア機能が低下すると、皮膚バリア機能が低下し、肌の乾燥や肌荒れ、さらには皮膚の老化の促進につながると考えられています。

 本研究では、ヒト三次元培養表皮モデル(図1)に紫外線を照射することで皮膚バリア強度の指標となるTER*2の低下を誘導したバリア機能低下モデルを作成し(図2)、紫外線によってバリア機能が低下するメカニズムの解明を試みました。その結果、UVB照射で誘導される炎症性サイトカインの一つであるTNF-α*3の刺激でもTERが低下すること(図3)を確認するとともに、炎症や光老化に大きく寄与する転写因子NF-κB*4の過剰な活性化を抑えることで、バリア機能低下モデルのTERが改善すること(図4)を新たに見出しました。さらに、このバリア機能低下モデルにおいて、キハダ樹皮エキス(図5)および、その主要成分であるベルベリン(図6)がTERの低下を改善することがわかりました。ベルベリンにはNF-κBの活性化を抑制する作用があることから(図7,8)、キハダ樹皮エキス(活性成分:ベルベリン)が、NF-κBの活性化を抑制することによって、紫外線によるTERの低下を改善することが示唆され(図9)、紫外線による皮膚バリア機能低下の改善に働きかけることが期待されます。
 本研究成果については今後、新たに開発するスキンケア製品に活用していく予定です。

*1 キハダ樹皮エキス:ミカン科植物であるキハダ(Phellodendron amurense Ruprecht または Phellodendron chinense Schneider)の樹皮の乾燥物から抽出したエキス。キハダは第十七改正日本薬局方収載の生薬である黄柏(オウバク)の基原植物としても知られている。第35回和漢医薬学会学術大会にて、キハダ樹皮エキスが皮膚のバリア機能を担うTJの主要構成タンパク質クローディン1の発現を促進する作用を報告している。

*2 TER(Transepidermal Electrical Resistance):表皮の外側と内側の間の電気抵抗値であり、TJの形成に伴い高い抵抗値を示すことから、バリア強度の指標として用いられている。

*3 TNF-α(Tumor Necrosis Factor-α):腫瘍壊死因子の一種。細胞から放出され、種々の細胞間相互作用を介して炎症を惹起させる炎症性サイトカインとしても知られている。

*4 NF-κB(Nuclear Factor-kappa B):炎症において重要な働きをする転写因子。紫外線などの刺激によりNF-κBが活性化すると、TNF-αやIL-1等の炎症性因子の遺伝子発現が誘導される。その過剰な活性化は光老化の進行に寄与することが報告されている。

ヒト三次元培養表皮モデルにおいてUVB照射が及ぼす影響

方法 ヒト三次元培養表皮モデルにおいて、紫外線(UVB)の照射によりバリア機能の低下を誘導した。作成したモデルのバリア機能をTERの測定によって、TNF-αの遺伝子発現およびタンパク質産生をそれぞれリアルタイムPCR法、ELISA法で評価した。
結果

図1

図1:ヒト三次元培養皮膚モデルの模式図


図2

図2:UVB照射によるTERの低下とTNF-α発現および産生の上昇


  • 図3

    図3:TNF-α刺激によるTERの低下

  • 図4

    図4:UVB誘導性のTERの低下に対する
    NF-κB阻害剤の改善作用

UVB照射によりTERが低下するとともに、TNF-αの遺伝子発現およびタンパク質産生が上昇した。また、TERの低下はTNF-α刺激によっても誘導されること、UVB誘導性のTERの低下がNF-κB阻害剤であるBAY11-7082の添加によって改善されることを確認した。

キハダ樹皮エキスがバリア機能の低下を改善

方法 UVB照射およびTNF-α刺激によってTERの低下を誘導したバリア機能低下モデルにおいて、キハダ樹皮エキスがバリア機能に与える影響をTERの測定によって評価した。
結果

図5

図5:UVBおよびTNF-α誘導性のTERの低下に対するキハダ樹皮エキスの改善作用

UVBおよびTNF-α誘導性のTERの低下が、キハダ樹皮エキスの添加によって、いずれも有意に改善した。

ベルベリンがバリア機能の低下を改善

方法 UVB照射およびTNF-α刺激によってTERの低下を誘導したバリア機能低下モデルにおいて、キハダ樹皮エキスの主要成分として知られるベルベリンがバリア機能に与える影響をTERの測定によって評価した。
結果

図6

図6:UVBおよびTNF-α誘導性のTERの低下に対するベルベリンの改善作用

図5で添加したキハダ樹皮エキス中のベルベリン濃度を算出し、対応する濃度で同様に評価を行ったところ、UVBおよびTNF-α誘導性のTERの低下が、ベルベリンの添加によって、いずれも有意に改善した。バリア機能低下の改善において、ベルベリンが活性成分として寄与している可能性が示唆された。

ベルベリンがTNF-α誘導性のNF-κBの活性化を抑制

方法 表皮角化細胞において、TNF-αの添加によりNF-κBの活性化を誘導し、NF-κBの活性化に対するベルベリンの作用を確認した。NF-κB活性化はウェスタンブロッティング法により、IκB-α*5のリン酸化を検出することで評価した。
結果
  • 図7

    図7:TNF-α刺激により
    IκB-αのリン酸化が亢進

  • 図8

    図8:TNF-α誘導性のIκB-αのリン酸化
    亢進
    に対するベルベリンの改善作用

表皮角化細胞において、TNF-α濃度依存的にIκB-αのリン酸化が亢進した。また、IκB-αのリン酸化がベルベリン濃度依存的に抑制された。


図9

図9:キハダ樹皮エキスがTERの低下を改善するメカニズム

以上の結果より、キハダ樹皮エキス中の活性成分ベルベリンが、NF-κBの活性化を抑制することによって、UVB誘導性のTERの低下を改善することが示唆された。


*5 IκB-α:NF-κBに結合しNF-κBを不活化するタンパク質。IKK(IκB-αをリン酸化する酵素)によってIκB-αがリン酸化されると、IκB-αは分解されNF-κBが活性化する。本研究ではIκB-αのリン酸化亢進をNF-κBの活性化の指標として用いた。

*6 IL-1:TNF-αと同様にUVB照射によって誘導されることが知られている炎症性サイトカインのひとつ。